公共のかつぎ手づくり – 公共を担う人材の条件

支援を行った事例

体育館の場合

当時、ボランティアで子供にスポーツを教えるグループが市内に存在しました。スポーツで活躍した経歴のある人たちが集まり、才能のある子どもたちを指導しています。

ボランティアグループは、慢性的な資金不足に悩まされていました。優秀な子どもの能力を引き出すためには、プロレベルの優秀なコーチが必要です。しかし、そのようなコーチを招くための資金がありませんでした。

この状況を知った私たちは、そのグループに対して体育館を運営することを勧めました。なぜなら、体育館を自分たちで運営することにより、優秀なコーチを施設の管理者として雇えるからです。グループのメンバーは、スポーツで活躍した経験のある人たちです。そのため、体育館が提供するサービスに精通しています。施設の運営者としてこれほど適任の人たちはいません。

そこで、私たちは体育館が民間に委託されようとしている現状と、施設を運営することにより、これまでよりも質の高いサービスを提供できることを伝えました。そして、チーム作りとNPO団体を法人化する支援を行ったのです。

図書館の場合

図書館に指定管理者制度を導入することが決まったとき、「図書館は、人や文化を創るための大事な施設である。」と強く訴える人物がいました。現在、図書館を運営している責任者の一人です。特に、民間企業が図書館を運営することに対して危惧されていました。

一般的に、企業は利益を得ることを優先します。利益を得るために、顧客に必要とされるサービスを提供します。逆に、利益が得られなければ、役に立つサービスでも打ち切られてしまいます。

図書館は、本来的に提供するサービスから利益を得ることができません。そのため、収益を確保するためには、提供するサービスを減らすか、蔵書の購入を少なくするしかないのです。しかし、これでは図書館が持っている機能を削ぐことになります。

また、個人情報の扱いも心配されました。特に、図書の「貸し出し記録」は重要な個人情報です。貸し出し記録から、その人の関心・趣味・嗜好を推測できます。民間企業がこの情報を得たとき、別のビジネスに使わないという保証はありません。

図書館が収集している資料の中には、郷土資料もあります。資料を集めるためには、長年地域に密着し、地元の人と信頼関係を築きながら、地域情報に精通しなければなりません。全く地元のことを知らない人が図書館を運営したら、貴重な文化財の保存は不可能でしょう。

市が直営で図書館を運営していたときも、改善の余地はありました。司書の数が非常に少なかったのです。司書の業務は、本の貸し出しをするだけではありません。利用者の要望を聞き取り、適切な資料を提供することが最も重要な仕事です。図書館にある膨大な資料の中から、その人のニーズに合ったものを提供できるようになるには、司書の仕事を2, 3年経験しただけでは難しいでしょう。定期的に異動がある行政の職員では、質の高い司書の役割を担うことが制度上難しかったのです。

このような課題が山積する中、指定管理者として図書館の運営に興味はないかと、私たちも問われたことがあります。しかし、私たちの組織の使命(ミッション)は、街の課題を直接解決することではありません。課題を深く認識している人と一緒になって問題に取り組み、考え方を整理しながら、課題を解決する支援を行うことです。

また、私たちは、図書館を効果的に活用するノウハウを持っていません。私たちよりも図書館の重要性について深く認識している人たちが運営を担うべきだと考えました。そこで、私たち図書館の現状を深く認識している人たちと一緒に考えながら、チーム作りとNPO団体の法人化の支援を行いました。