「福祉サロン」事業を行った背景
障害者自立支援法により、障害者の親・教師は危機感を抱き、
福祉施設は障害者の賃金を上げる必要に迫られた
かつて、障害者は自宅で一生を過ごすか、福祉施設へ行くしか選択肢がない時代がありました。働いて自立した生活を送り、地域の中で暮らすことを考えることができなかったのです。福祉施設の数は少なく、家族が面倒を見ることができない重度の障害者は、行政の「措置」により施設へ送られました。
福祉制度が整うに従い、養護学校が各地にできました。中には普通学校で学べる障害者もいました。行政が一方的に障害者の処遇を決める時代は終わり、障害者が自ら福祉サービスを選択できる制度もできました。
それに伴い福祉施設の数は増え、重度の障害者だけではなく、軽度の障害者も施設を利用できるようになりました。障害者福祉が充実した結果、障害者に対する社会保障費は増加の一途を辿りました。
このような状況の中、 2006 年に「障害者自立支援法」が施行されました。この法律の目的は、障害者が自立した日常・社会生活を営めるようになることです。働くことが可能な障害者は、民間企業に雇用されることを期待されました。福祉施設を利用する障害者には「利用料」の一部負担が求められました。
この法律に対して危機感を感じたのは、障害者の親・教育者でした。なぜなら、それまでは障害者が民間企業で働くことなど考えられなかったからです。突然、企業で働くことを求められても、どう対処したら良いか分からず困ったのです。
障害者の受け皿となる福祉施設でも問題が生じました。施設の利用料を障害者に求めたことにより、障害者が施設で得ていた賃金より「利用料」が上回ってしまったからです。得られる賃金が極端に低い福祉施設があることも明らかになり、施設で働いていた障害者の中には働く意欲が低下する人もいました。このため、福祉施設では、障害者の賃金を上げることが課題となったのです。
このように、障害者自立支援法が施行されたことにより、障害を持つ当事者だけでなく、障害者に関わる人々に様々な変革が求められるようになりました。
民間企業に雇用されるためのノウハウがない障害者
経営的な視点が重視されてない福祉施設の現場
「障害者は、民間企業に雇用されにくい。」これには2つの理由があります。一つは、企業が、障害者に関する知識を持っていないために雇用に踏み切れないこと。もう一つは、障害者側(当事者・親・教育者)が、企業のニーズを把握しておらず、雇われるためのノウハウを持っていないことです。
福祉施設が、障害者の賃金を上げることができないのにも理由があります。施設の職員は、障害に関する知識は豊富に持っています。しかし、障害者の賃金を上げるための、経営的な視点までを持つ人は少なかったのです。