市民リーダーづくり – 課題に立ち向かうための戦略

リーダー経験を通し、「技」と「知識」を伝えながら、援護する

イベント事業の組織運営で重要な役を経験してもらう

リーダーになる一番の近道は、実際に組織のメンバーを動かし、みんなに協力してもらう経験を積むことです。この事業では、ボランティアや市民活動の組織運営において、リーダーとして重要な役割を担う場を提供しました。

事例を一つ挙げます。私たちのまちには「森の大切さ」を理解することを目的とした「森の文化祭」というイベント
があり
ます。このイベントは10年以上続いており、1,000人規模の参加者がいます。リーダーを経験する人は、このイベントの実行委員として関わり、毎年変化するそれぞれの課題を解決することを通して、リーダーの役割を学びました。

リーダーに必要な「技」と「知識」を伝える

私たちは、リーダーを務める人に対して、果たすべき役割を伝えました。また、状況に応じたアドバイスを行いました。これにより、リーダーとして役割・ポイントを効率的に学んでもらえます。

リーダーに伝えた「技」と「知識」を以下に述べます。

事業を推進するために

ゴールを明確にする

初めに
事業の「ゴール」を明確にし、「顧客」は誰なのか意識してもらいます。目的がなく、軽いノリで始めた事業は、途中でチームが解体してしまうことが多いためです。

特に、人脈を作るために行う事業は、失敗する傾向にあります。最近では「ネットワーク作り」を目的化している事例が、しばしば見受けられます。

「事業」は課題を解決することが目的です。必要な人脈を作ることではありません。人脈は課題解決を行う過程で自然に得られるものです。

事業を成功させる秘訣は、予め事業の要となる「キーパーソン」を押さえることです。事業のゴールを明確にすると、自然と必要なメンバーが選定されます。

組織づくり

ナンバー2を作る

極めて小さな組織でない限り、リーダ
ーが
一人で組織をまとめることはできません。やることを全て把握することも不可能です。このため、組織内に「ナンバー2」となる人を作ることが、組織運営を行う上で大切です。

「ナンバー2」には、リーダーが見落としがちな問題をフォローしてもらいます。常に事業の進行状況を把握し、リーダーと共にチーム全体を見渡すことが求められます。リーダーが行うべきことを全てを抱え込むのではなく、ナンバー2 と問題を共有することにより、組織の運営を円滑に行うことができるでしょう。

人を動かす

原則を知る

リーダーは、チームのメンバーや事業に関わる人に役割を与え、自律的に動くことができる環境を作ることが仕事です。その際、心得ておく「3つの原則」があります。

1つ目は、自分で全てをやらないことです。誰かの代わりに自分が作業することは、リーダーの仕事ではありません。「誰にお願いし、誰に頼むのか」を決定することがリーダーの役割です。

2つ目は、人をその気にさせることです。人は「正論」と「理屈」だけでは動きません。「感情」に訴えて、やる気を引き出すことも必要です。

3つ目は、相手が「動かざるをえない論理」を作ることです。そのためには、事業に関わる全ての人の「願い」を引き出し、それを「叶える」ストーリーを描けると良いでしょう。

交渉のタイミングを伝える

リーダーは様々な関係者と交渉を行いながら事業を進めていきます。例えば、商品を調達したり、会場を押さえり、交渉力が求められる場面は多岐に渡ります。

事業を円滑に進めるためには、交渉相手に対する「お願い」や「お礼」のタイミングが重要です

リーダーの経験が浅い人は、このような「タイミング」を見逃しがちです。私たちは、第三者として外から組織の動きを眺め、必要な「タイミング」を適宜伝えました。

交渉相手を味方につける

もし、チームの中に必要な能力を持ったメンバーがいない場合、交渉相手の中に味方を作り、協力者にすると良いでしょう。そのためには、交渉相手についてよく知っている人から、その人の興味・関心、禁句となる言葉など、様々な情報を得ておくことです。

もし、そのような協力者がなければ、交渉相手に自分の「思い」を伝えることです。真剣な思いがなければ、交渉のテーブルにすらついてくれません。

その際、自分の事業に対する必要性を説くのではなく、「必要としている人の思い」を伝えることが効果的です。自分の抱えている問題を語り、「同情」から協力を取り付けることもあります。

ただし、「思い」と「同情」だけでは人は動きません。自分の過去の実績をハッキリと示すことが必要です。これから行いたい事業とは別の自分の体験を話すことができると良いでしょう。実績がある人間は信頼されやすいからです。

これらの積み重ねの上に、味方につけたい交渉相手と自分の「喜び」「悲しみ」の優先順を共有します。そして、一緒にスタートラインに立つのです。

リーダーとしてのマインド

ディレクターではなくプロデューサー

リーダーは、小手先の知識や技だけでは務まりません。リーダーとしての役割観を持つことが大切です。

テレビ番組や映画を制作することにたとえて説明します。制作をする上で重要な役割を担う職務が2つあります。「プロデューサー」と「ディレクター」です。まちの課題を解決するリーダーは、ディレクターではなく、プロデューサーとしての役割を担うべきです。

ディレクターは制作する番組の「質」に対して責任を持ちます。これに対して、プロデューサーは「全体の統括役」です。企画を立案し、予算を調整し、スタッフの管理まで行います。リーダーの役割は、このポジションに相当します。

特に市民活動では、新しい価値を創り、自分たちがやろうとすることの価値を他人に伝え、メッセージを発信していくことも重要な仕事となります。

リーダーを直接・間接的にサポートする

次に来る課題を伝える

私たちは、リーダーに「技」や「知識」を伝えるだけではなく、直接サポートも行いました。その一つが「次に来る課題を想定し、予め伝えておく」ことです。

リーダーとして組織を運営していると、次から次へと課題に直面します。経験が浅いと、現在の状況から次に発生する問題を見通すことができません。そこで、大きな問題が発生しそうになる前に、次の課題を伝え、対処するための準備をしてもらいました。

はじめから解決できない課題にぶつかると、リーダー経験がトラウマとなります。リーダーとして成長してもらうには、できる範囲からからはじめ、徐々に難しい課題に対処できるよう配慮することです。

リーダーを援護する

モチベーションを維持

リーダーにはコントロール出来ないことが原因で、事業がストップすることがあります。例えば、天候に恵まれなかったためにイベントを中止したり、関係者が事件を起こすことによって事業自体を断念せざる終えないこともあります。

予想外の大問題が生じると、リーダーのモチベーバションが低下し、「もう一度やろう!」という気になかなかなれません。このような場合、私たちはリーダーのモチベーションが低下しないようにフォローします。また、チームメンバーのモチベーションも維持できるようにアドバイスを行います。

不当な批判から守る

課題に取り組むとき、はじめから100点を取れないことを承知で行う人もいます。

「現状が0点だから、せめて30点にしたい」

という思いです。このことが理解されてないと、事業を始めた人に対して、周囲が批判をはじめしまうのです。そのようなとき、私たちはリーダーを守る行動を取ります。批判する人に対しては、

「なぜ、あたなは彼に協力しないのですか?」

と問いかけます。

リーダーが未経験の場合、最初の打席でホームランを打つことは極めて難しいことです。だからこそ、私たちは事情を理解せず批判する人からリーダーを守ります。

例えば、批判をする人は次のようなことを口にします。

「あなたより知識持っている人はいるよ。」

「あなたはこの事業を行うのに適切ではない。」

リーダーも普通の人間です。厳しい批判にさらされると、モチベーションが下がります。この場合、批判する人に対して、更に批判を重ねることでリーダーを援護する訳ではありません。批判する人よりも更に専門的な知識を持っている人をリーダーに紹介し、

「あなたに頑張ってもらうことが一番大事です」

と応援してもらうのです。多くの専門家は実践する人を軽んじません。なぜなら、実践することの大変さが分かっているからです。

「知識」は何のために使うのでしょうか?私たちは、「実践」に使えてこそ「知識」だと考えます。闇雲に批判するために用いる知識は、有効な知識活用とは言えません。

時には、リーダーは家族から、

「私たちのことを放置して、何やっているの?」

と言われることもあります。そのときは、私たちが第三者としてお話をさせてもらい、理解してもらえるように努めるときがあります。

チームが解体しそうになったらフォローする

組織は様々な背景を持った人が集まります。そのため、リーダーとチームメンバーが仲間割れしてしまうこともあります。

このような場合、最初はリーダーをなだめます。そして、時間を置いてから、一人で事業を行うことは無理なことを理解してもらいます。次に、仲間割れしてしまったメンバーの必要性を訴え、メンバーの復帰を促します。チームの内部の人よりも、第三者が話すことで、冷静になれることがあるのです。


ーダーやメンバーの愚痴を聞き、フォローすることがあります。組織を運営するには、タイミングの良いガス抜きをすることにより、チームの結束を高めることができます。